石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
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パワハラの定義が具体化されます~職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案~
1 パワハラの定義
今年の通常国会において,労働施策総合推進法が改正されて,
30条の2第1項に,パワハラの定義が初めて法律に規定されました。
改正労働施策総合推進法30条の2第1項で規定された,
パワハラの定義とは,次のとおりです。
①職場において行なわれる優越的な関係を背景とした言動であって,
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,
③労働者の就業環境が害されること
この①から③の要件を満たせば,
違法なパワハラに該当することになります。
もっとも,この①から③の要件は,抽象的であるため,
具体的にどのような言動が違法なパワハラに該当するのかが,
はっきりせず,適法な業務指導と違法なパワハラの線引を
どうするかが問題となります。
2 職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針の素案
そこで,厚生労働省は,この①から③の解釈について,
指針を作成する作業をすすめており,10月21日に,
その指針の素案を公表しました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000559314.pdf
まず,①職場において行なわれる優越的な関係を背景とした言動
について,当該事業主の業務を遂行するに当たって,
当該言動を受ける労働者が行為者に対して
抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係を
背景として行なわれるもの,とされています。
通常,パワハラは,上司から部下に対してなされるものですが,
場合によっては,部下から上司に対する言動や,
同僚から同僚に対する言動も,パワハラに該当する場合があります。
そのため,「優越的な関係」については,広くとらえることで,
パワハラによる被害を広く救済することにつながると考えます。
しかし,今回の素案の
「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係」
という解釈では,パワハラの被害者が嫌がって少し
抵抗や拒絶をした場合には,
違法なパワハラに該当しなくなるリスクがあります。
すなわち,「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係」
という解釈では,パワハラを限定することにつながり,
パワハラの被害が切り捨てられるリスクがあります。
私個人としては,優越的な関係の解釈は,もっと広く,
パワハラの被害が含まれるようにするべきだと考えます。
次に,②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものについて,
社会通念に照らし,当該言動が明らかに当該事業主の業務上必要がない,
またはその態様が相当でないもの,とされています。
そして,この判断をするには,
当該言動の目的,
当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む
当該言動が行なわれた経緯や状況,
業種・業態,
業務の内容・性質,
当該言動の態様・頻度・継続性,
労働者の属性や状況,
行為者との関係性
などの要素を総合的に考慮されることになります。
②の要件については,言葉の性質上,
これ以上具体化はできないと思いますので,
判断要素が具体化されたのは良かったと思います。
今後のパワハラの損害賠償請求において,
上記の要素を検討していくことが重要になると思います。
最後に,③就業環境を害することについて,
当該言動により労働者が身体的又は精神的に苦痛を与えられ,
労働者の就業環境が不快なものとなったため,
能力の発揮に重大な悪影響が生じる等
当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること,
とされました。
看過できない程度の支障という表現で,
パワハラの範囲が制限されることがないように,
被害者である労働者の主観が考慮される必要があると思います。
このように,パワハラの3つの要件について,具体化されましたが,
パワハラを制限する方向にはたらく表現がありますので,
この素案を改善してく必要があると考えます。
本日もお読みいただきありがとうございます。