石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
財務省の決裁文書改ざん問題から考える退職のタイミング
財務省は,6月4日,
森友学園と国有地取引に関する決済文書の改ざん問題で,
佐川前理財局長が改ざんや交渉記録の廃棄の方向性を決定づけたとして,
「停職3ヶ月相当」の処分として,
退職金から約500万円を減額することを発表しました。
私が気になったのは,「停職3ヶ月相当」
の処分の「相当」という部分です。
佐川前理財局長は,6月4日の処分発表前に,財務省を既に退職しています。
退職した労働者に対して,懲戒処分ができるのかと疑問に思ったのです。
この疑問を考えるにあたり,退職した労働者に対して,
懲戒解雇ができるのかという論点を検討してみます。
懲戒解雇とは,会社のルール違反に対する制裁罰である
懲戒処分として行われる解雇のことで,ようするに,
労働者が会社から受ける処分の中で最も重いものです。
懲戒解雇されると,経歴に大きな傷がついて,
次の就職が困難になったり,退職金が減額されるなど,
労働者にとってかなりのダメージとなります。
そのため,よほど労働者がひどいこと
をしない限り,懲戒解雇まではされません。
さて,労働者に,懲戒解雇に相当する違反があったとしても,
その労働者が既に退職していたなら,その労働者との労働契約は
既に終了しているので,懲戒解雇をすることができません。
懲戒解雇とパラレルに考えるなら,
既に財務省を退職している佐川前理財局長に対して,
停職処分をすることはできないのです。
停職処分とは,労働契約を存続させつつ,
労働者が働くことを一定期間禁止し,停職期間は無給とする懲戒処分であり,
佐川前理財局長は,既に退職しているので,停職処分にはできないのです。
そのため,「停職3ヶ月」ではなく「停職3ヶ月相当」となったのだと思います。
次に,退職金から約500万円を減額した点について検討します。
懲戒解雇の場合,労働者が退職後に,
懲戒解雇に相当する違反をしていたことが判明した場合,
就業規則などに,当該違反の事実をもって退職金を減額できる
規定があれば,退職金を減額することができます。
財務省の退職金の規定がどうなっているのか分かりませんが,
仮に,停職処分に該当する違反行為があった場合に,
退職金を減額できるという規定があれば,
退職後に停職処分に相当する違反をしていたことが判明すれば,
退職金を減額できることになります。
そこで,財務省は,佐川前理財局長が退職しているので,
停職処分にはできないけれども,「停職3ヶ月相当」として,
退職金を約500万円減額したのだと考えられます。
なお,佐川前理財局長については,
懲戒免職で退職金を全額返上させるべきだという意見もあるようですが,
過去に懲戒処分歴がなければ,いきなり懲戒免職とすると,
裁判で争われた場合,裁判所は,処分としては重すぎると判断する
場合がありますので,これだけ大問題になってはいますが,
過去の功績を考慮すると,停職3ヶ月は相当なのだと思います。
また,懲戒免職でないので,停職処分で退職金を大幅に
減額することは困難であるので,約500万円の減額に,
多くの国民は納得しないかもしれませんが,
労働法的には妥当なラインだと思います。
佐川前理財局長の事例から言えることは,
労働者は,ルール違反をしてしまって,懲戒処分をされそうであれば,
早目に自分から退職することを検討したほうがいいでしょう。