石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
解雇期間中に別の会社で働いた収入は未払賃金から控除されてしまうのか?
労働者が解雇されている期間に別の会社で働いて得た収入
(中間収入といいます)は,解雇が無効と判断されるまでの期間の
未払賃金(バックペイといいます)から控除されてしまうのでしょうか。
労働者は,解雇されてしまうと,給料がもらえなくなるので,
生活するために収入を確保する必要があるので,別の会社で働きます。
もっとも,解雇に納得ができない労働者は,会社に対して,
解雇が無効であるので,労働契約上の地位があることの確認と,
バックペイの支払いを求めて,労働審判または裁判を行います。
労働者が解雇した会社に対して,お金の支払いを求めたいだけ
であっても,裁判手続では,解雇した会社に戻ることを
建前として主張することになります。
解雇した会社に戻ることを建前として主張しているのに,
別の会社で働いていることは一見すると矛盾していますが,
労働者としては,生活していかなければなりませんので,
解雇した会社に戻ると主張して裁判で争っていても,
別の会社で働くことは問題ありません。
さて,解雇を争う事件ですと,会社から,
解雇期間中に労働者が得た中間収入をバックペイから
控除するべきだという主張がされることが多いです。
本日は,バックペイから中間収入を控除できるのかについて解説します。
現行民法536条2項には次のように規定されています。
「債権者の責めに帰すべき事由によって
債務を履行することができなくなったときは,
債務者は,反対給付を受ける権利を失わない。
この場合において,自己の債務を免れたことによって
利益を得たときは,これを債権者に償還しなければらならない。」
労働者が会社で働こうとしても,会社が不当な解雇で,
労働者の就労を拒否している場合,労働者は,
会社に労務を提供することができません。
そこで,現行民法536条2項の第1文によって,
会社の不当解雇という「責めに帰すべき事由」によって,
労働者は,労務を提供する債務を履行できないので,
反対給付である賃金請求権を行使できるのです。
これが,解雇事件で,労働者がバックペイを請求できる根拠です。
しかし,労働者が,会社で労務を提供することを免れたことで,
別の会社で働いて中間収入という利益を受けているので,
現行民法536条2項第2文によって,
中間収入分を会社に返さなければならないことになります。
労働者は,解雇されてやむなく別の会社で働いて
なんとか稼いだ収入が「自己の債務を免れたことによって利益を得たとき」
に該当するのは,労働者としては,釈然としないと思います。
ところが,労働基準法26条には,
「使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合においては,
使用者は,休業期間中当該労働者に,
その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」
と規定されています。
民法よりも労働基準法が優先適用されますので,
会社がバックペイから控除できる中間収入は,
平均賃金の4割に限定されており,
平均賃金の6割分は,労働者が確保できます。
労働基準法の平均賃金とは,
3ヶ月間に労働者に支払われた賃金の総額を,
その期間の総日数で割って算出されます。
まとめますと,解雇期間中に別の会社で働いた場合,
解雇された会社で働いていたときの平均賃金の6割については,
労働者は,中間収入を確保することができ,
平均賃金の6割を超える残りの4割の部分については,
バックペイから中間収入が控除されることになります。
本日もお読みいただきありがとうございます。