石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
会社から仕事を与えられないことはパワハラなのか?
会社から仕事を与えられない,
会社から無意味な仕事をさせられる,
窓際に追いやられる,
追い出し部屋につれていかれた。
時として,会社は,労働者に対して,
このような非情なことをしてきます。
なぜ,会社は,このようなことをするのかといいますと,
本当は,労働者を能力不足などを理由に解雇したいのですが,
解雇はよほどの理由がないとできないので,
解雇をしても解雇が無効になるリスクがあります。
これに対して,労働者が自分から退職すれば,
合法的に労働契約を終了することができます。
そのため,ブラック企業は,仕事を与えないなど,
労働者を干すことで,労働者を精神的に追い詰めて,
自己都合退職に追い込むのです。
それでは,労働者に仕事を与えないことが
パワハラに該当して,労災請求ができないのでしょうか。
本日は,仕事を与えられないなどのパワハラを受けて,
うつ病を発症したとして,労災を請求した,
中国新聞システム開発事件を紹介します
(広島高裁平成27年10月22日判決・労働判例1131号5頁)。
この事件では,原告の労働者は,
不要なデータ記録媒体の磁気テープを
ハンダごてで焼いて穴を開ける仕事や
マシンルームの掃除を命じられました。
原告の労働者が,これに反発すると,会社から,
「これからは,自分ができると思うことを見つけてやってください」
と言われ,仕事を与えられなくなりました。
そして,朝礼の際に,他の社員がいる前で
「待機状態です」と言わされました。
3ヶ月ほど,仕事が与えられず,
原告の労働者は,うつ病を発症しました。
原告の労働者は,労災を請求しましたが,
労働基準監督署は,労災と認めなかったので,
裁判を起こしました。
広島高裁は次のように判断しました。
まず,労働者に仕事をする意思があり,
客観的に仕事することが可能であるにもかかわらず,
会社が具体的な仕事を担当させず,または,
労働者の地位や能力と比べて著しく軽易な業務しかさせないことは,
労働者に対して,自分は会社から必要とされていない
という無力感を与え,他の労働者との関係において,
劣等感や恥辱感を与えることになります。
そのため,状況によっては,仕事を与えないことが,
精神障害を発症する原因となる強い
精神的負荷を与えることにつながるのです。
そして,業務上の合理的な理由なく,
3ヶ月間仕事を与えられない状態に置かれることで
受ける心理的な負荷は強度であり,そのストレスによって,
うつ病を発症したと判断されました。
通常,パワハラといえば,殴るけるなどの暴行や,
「給料泥棒」などの言葉の暴力が典型的ですが,
仕事を与えないことがパワハラに該当するとして,
労災が認められるのは,珍しいことです。
厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する
円卓会議ワーキンググループ報告」において
パワハラが6つの類型に分類されているのですが,
その1つに過小な要求(業務上の合理性がなく,
能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや
仕事を与えないこと)があげられています。
このように,仕事を与えられないことも
パワハラにあたり,場合によっては,
労災が認められることがあるのです。
会社から干されて,精神疾患を発症した場合には,
労災の申請をするかを検討してみることをおすすめします。
本日もお読みいただきありがとうございます。