石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
会社が勝手に退職扱いしてきたときの対処法
最近は,人手不足の影響で,会社を辞めたくても
辞められないという法律相談が増えています。
その一方で,会社から,解雇ではないものの,
勝手に退職手続きをさせられるというトラブルも発生しています。
労働者が自分から辞めますとは言っていないにもかかわらず,
会社が「あなたは自分から辞めますと言いましたよね。」
などと言って,勝手に退職手続きをしてきた場合,
労働者はどのように対処するべきなのでしょうか。
本日は,このような会社の理不尽な
やり方に対処する方法を説明します。
会社が勝手に退職扱いしてきた場合に,
参考になるのが,東京地裁平成29年12月22日判決です
(判例時報2380号100頁)
この事件では,出産のため休業中であった女性労働者が,
会社から勝手に退職扱いされて育児休業の取得を妨げられた
と主張して,会社に損害賠償請求をしました。
いわゆるマタハラの事件です。
この判決では,労働者の退職の意思表示は,
その重要性にかんがみて,慎重に判断
しなければならないと判断されました。
なぜならば,退職の意思表示は,
労働者にとって生活の原資となる賃金の源である職
を失うという重大な効果をもらたす意思表示だからなのです。
日本の雇用社会では,労働者が自分の意思で退職する時には,
会社に退職届などの文書を提出することが一般的です。
口頭で退職の意思表示をすると,
言った言わないという問題になったり,
意味や趣旨が曖昧になるので,
退職という重大な意思表示を,
文書で明確にすることで,
円滑な退職手続きをすすめることができるのです。
そのため,退職届などの文書がない場合には,
退職の意思表示の認定はより慎重にする必要があるのです。
さらに,男女雇用機会均等法9条3項において,
女性労働者に対して,妊娠や出産,産前・産後休業,
育児休業の取得などを理由として,
不利益な取扱をしてはならないと規定されています。
妊娠や出産した女性労働者,
産前・産後休業や育児休業を取得している女性労働者
の退職の意思表示は,さらに慎重に判断しなければならないのです。
本件事件では,原告の女性労働者は,
退職の意思もそれを表示する言動もなく,
育児休業後に職場復帰する意思を表示していたことから,
会社が強引に退職扱いにしようとしたとして,
会社が主張する退職は認められませんでした。
そして,会社は,原告の女性労働者を違法に退職扱いにして,
育児休業取得に伴う育児休業給付金の受給を妨げたとして,
原告の女性労働者の育児休業給付金相当分
の損害賠償請求が認められました。
育児休業を取得する労働者が雇用保険の一般被保険者で,
育児休業開始日前2年間に賃金支払基礎日数が
11日以上ある月が12ヶ月以上ある場合,
会社を通じてハローワークに申請することで,
育児休業給付金が支給されるのです。
以上のように,会社が勝手に退職扱いしてきても,
労働者の退職の意思表示は慎重に判断されますので,
会社の対応に納得いかない場合には,あきらめずに,
会社に対して,働き続けることを主張していきます。
それでも,会社が素直に応じてくれない時には,
弁護士にご相談ください。
本日もお読みいただきありがとうございます。