石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
労働者は会社の調査に協力しなければならないのか?
労働者が会社の経費を不正に使用するなどの
懲戒処分に該当する行為(非違行為といいます)をした場合,
会社は,労働者の非違行為の有無を調査します。
経費の不正使用であれば,具体的には,
領収書や会計帳簿を税理士にチェックしてもらい,
お金の流れにおかしいところがないかを確認したり,
他の労働者の聞き取りを行います。
客観的に手堅い証拠を固めた後に,
非違行為をしたと疑われる労働者に
事情を聴取することになると思われます。
このような調査を経て,会社は,非違行為があったのか,
あったとしたらどのような懲戒処分とするのかを決定します。
それでは,会社が懲戒処分を検討すための調査をする場合に,
労働者は,会社の調査に応じなければならないのでしょうか。
この論点について争われた富士重工事件の
最高裁昭和52年12月13日判決では,
「違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため,
事実関係の調査をすることができることは,
当然のことといわなければならない」と判断されました。
また,ドコモCS事件の東京地裁平成28年7月8日判決では,
「労働者は自身の労働契約上の義務に違反する行為に関し,
使用者が調査を行おうとするときは,
その非違行為の軽重,内容,調査の必要性,その方法,態様等に照らして,
その調査が社会通念上相当な範囲にとどまり,
供述の強要その他の労働者の人格・自由に対する
過度の支配・拘束にわたるものではない限り,
労働契約上の義務として,その調査に応じ,
協力する義務がある」と判断されました。
ようするに,非違行為をした労働者は,
会社の調査に協力する義務を負うのが原則といえます。
そして,非違行為をした労働者が,会社の調査の過程で,
うそをついたり,積極的に調査を妨害する行為をした場合は,
会社との信頼関係を悪化させるので,会社が懲戒処分を決める上で,
労働者にとって不利益に評価されてしまうのです。
そのため,非違行為をしたことに争いがない場合には,
労働者は,素直に会社の調査に応じた方が,
自分の身を守ることにつながるといえそうです。
次に,非違行為をした労働者ではない,その他の労働者には,
会社の調査に応じる義務があるのでしょうか。
この論点について,富士重工事件の最高裁判決では,
①当該労働者の職責に照らして,
調査に協力することが職務内容になっている場合,または,
②調査対象である非違行為の性質・内容,
非違行為見聞の機会と職務執行との関連性,
より適切な調査方法の有無などを総合判断して,
労務提供義務を履行するうえで必要かつ合理的であると
認められる場合には,調査に協力する義務はありますが,
それ以外の場合には調査に協力する義務はないと判断されました。
ようするに,①非違行為をした労働者を監督する立場にある
上司の場合や,②防犯カメラなどがなく,
非違行為を目撃した労働者が一人しかおらず,
非違行為を証明するためには,目撃した労働者の証言が必要な場合
などには,調査に協力する義務はありますが,そうでないなら,
一般の労働者には調査に協力する義務はないことになります。
非違行為をしていない労働者は,
会社の調査に無理に協力する必要はありませんが,
非違行為をした労働者に対して同情する理由がないのであれば,
通常は会社の調査に協力することがほとんどだと思います。
非違行為をした労働者が,会社から調査を受けており,
どのように対応すればいいか迷った場合には,
早急に弁護士に相談するようにしてください。
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