石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
残業時間の罰則付き上限規制が始まります
2019年4月1日,新元号「令和」が発表され,
日本全体が新時代の幕開けを予感させる高揚感に包まれました。
季節は春で,新生活がスタートすることもあり,
昨日はわくわくする気分になりました
(石川県では雪が降りましたが・・・)。
新元号の発表と共に,昨日,重要な法令が施行されました。
昨年6月に成立した働き方改革関連法のうち
残業時間の罰則付き上限規制が,昨日施行されました。
本日は,残業時間の罰則付き上限規制について解説します。
まず,昨日よりも以前は,残業時間に上限はないに等しかったのです。
労働基準法32条では,1日8時間,1週間で40時間を超えて
労働させてはならないと規定されていますが,
36協定が締結されていれば,労働時間を延長し,
休日労働をさせることができます。
平成10年12月28日労働省告示第154号の基準において,
1ヶ月の時間外労働の限度を45時間,
1年の時間外労働の限度を360時間とすることが
定められていたのですが,この限度時間を超えて
労働時間を延長しなければならない特別の事情
(臨時的なものに限ります)が生じたときには,
限度時間を超えて時間外労働をさせてもよいことになっていました。
そして,特別の事情がなくても,1ヶ月45時間を超える
時間外労働が常態化しており,臨時的ではない恒常的な業務を
残業でこなしている実情があり,この基準がほとんど
守られていませんでした。
また,特別の事情の場合に限度時間を超えて
時間外労働をさせる場合の上限が定められておらず,
残業時間は青天井となっていたのです。
その結果,長時間労働が是正されないまま,
過労死や過労自殺に至る悲惨な事件があとを絶たず,
電通の過労自殺事件が大々的に報道され,
青天井の残業時間に規制をかけなければならない
ということになり,残業時間の罰則付き上限規制が導入されたのです。
長時間労働は,健康の確保だけでなく,
仕事と家庭生活の両立を困難にし,少子化の原因や,
女性のキャリア形成を阻む原因,
男性の過程参加を阻む原因となっており,
これを是正することで,ワークライフバランスを改善させ,
女性が仕事に就きやすくなることを目的としているのです。
具体的には,労働基準法36条が改正されて,
36協定による原則的な時間外労働の限度時間は
1ヶ月45時間,1年に360時間までと定められました。
これは,上記の告示の基準を法律に格上げしたものです。
確認しておきたいのは,あくまで残業時間の限度は
1ヶ月で45時間,1年で360時間が原則であるということです。
もっとも,原則には例外があるものでして,
改正労働基準法36条5項において,
「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い
臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」
において,次の例外が認められます。
①1ヶ月の時間外労働と休日労働の
合計の時間数の上限を100時間未満とする
②連続する2ヶ月,3ヶ月,4ヶ月,5月及び6ヶ月の
それぞれについて,1ヶ月当たりの時間外労働と休日労働の
合計の時間数の上限を80時間以内とする
③1年の時間外労働の時間数の上限を720時間以内とする
そして,①と②の基準を超過すると,
会社に対して6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金
が科せられることになります。
また,1ヶ月45時間を超えて時間外労働をさせることができる
月数は,1年について6ヶ月以内とすることも
労働基準法に定められました(改正労働基準法36条5項)。
気をつけなければならないのは,
③の基準には,休日労働が規制の対象外となっており,
違反しても罰則がないことです。
そのため,ブラック企業が,休日労働を増やして規制を免れる
危険がありますので,労働者は,休日労働によって,
過労がたまらないように気をつける必要があります。
③の基準に休日労働を含めた上で,罰則で規制した方が,
わかりやすいのですが,なぜ,このように区別したのかはなぞです。
罰則が科される上限時間が100時間という
過労死ラインに設定されていたり,
③の基準に休日労働が含まれていないなど,
不十分な点もありますが,残業について初めて
罰則付きで規制されることになりますので,今後は,
長時間労働が是正されていく方向に進んでいくことになると思います。
長くなりましたので,続きは明日以降記載します。
本日もお読みいただきありがとうございます。