石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
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真の働き方改革のためには労働時間を削減して労働生産性を向上させることが重要です
先日,日弁連の貧困問題対策本部の勉強会で,株式会社ワークライフバランスの小室淑恵社長の講演を聞きました。小室社長が主張する労働時間革命が,ご自身の子育てと起業の実体験,豊富なデータ,コンサルしてきたクライアント企業の実績から,非常に説得的で感動したので報告します。
まずは,人口構造と経済成長の関係についてです。ハーバード大学のデービットブルーム教授によれば,人口ボーナス期と人口オーナス期に分けて国の経済成長を分析できます。
人口ボーナス期とは,ある社会の生産年齢比率が高くなり,人口構造が経済にプラスになる時期のことです。安い労働力を武器に世界中の仕事を受注する一方で,高齢者比率が低く,社会保障費が嵩まないのでインフラ投資が進み,爆発的な経済発展をします。1960年~1990年代半ばの日本が人口ボーナス期にあり,現在では,中国,シンガポール,タイ等の国が人口ボーナス期にあります。
人口ボーナス期が終わると人口オーナス期に移り,人口ボーナス期は二度とこなくなります。人口オーナス期とは,人口構造が経済の重荷になる時期のことです。働く人より支えられる人が多くなる状況になります。労働力人口が減少し,働く世代が引退世代を支えるという社会保障制度を維持することが困難になります。今の日本は,人口オーナス期の真っ只中にあるわけです。
人口オーナス期では,生産年齢人口でありながら,労働参画できていない人(女性,障がい者,介護している人)をどれだけ労働市場に参画させられるか,また,有効な少子化対策ができるかが重要になります。
女性が労働参画しつつ,少子化対策をするためには,男性の働き方改革,すなわち,労働時間の削減が重要になります。女性が1人目の子供を出産した後,男性が仕事が忙しいことを理由に,家事育児に参画しないと,女性は,協力者がいないまま孤独なワンオペ育児に陥り,そのトラウマで2人目の子供が産まれにくくなります。
そのため,男性が労働時間を短縮しつつ,仕事の成果をあげるという労働生産性を向上させることで,男性が家事育児に参画し,女性がワンオペ育児から脱出して,労働市場に参画しやすくなり,少子化が改善されて,労働人口が増加するというプラスの循環を生み出すことができます。
男性労働者の労働時間を削減する観点からすると,今の働き方改革法案の中で,高度プロフェッショナル制度は,弊害が多いです。すなわち,高度プロフェッショナル制度では,能力の高い社員に仕事が集中してしまい,どれだけ働いても残業代が発生しないので,優秀な人材ほど早く辞めてしまい,優秀な人材が日本の労働市場から海外の労働市場へ流出していってしまいます。
結局のところ,男性労働者の労働時間を削減することが人口オーナス期において最も重要であるにもかかわらず,高度プロフェッショナル制度は,労働時間の規制をとりはずして,どれだけでも長時間労働ができるようになるので,労働時間の削減と矛盾します。小室社長の講演を聞き,やはり高度プロフェッショナル制度は,真の働き方改革と矛盾するものであり,労働時間を削減して,労働生産性を向上させる法制度こそが必要であると確信しました。