石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
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会社が違法な配転命令を撤回してきたときの対処法
会社が違法な配転命令をして,労働者がこの配転命令が
違法であると争いだしたら,会社がその配転命令を形式的に撤回して,
就労を命じてきた場合,労働者は,
就労命令に従わなければならないのでしょうか。
会社がこのような違法な配転命令を発令したことによって
破壊された労働契約上の信頼関係が回復したとは
認められない場合には,労働者は,就労命令に従わなくても,
会社に対して賃金請求できると判断された裁判例を紹介します
(ナカヤマ事件・福井地裁平成28年1月15日・
労働判例1132号5頁)。
原告の労働者は,被告である住宅リフォーム会社
の福井支店の営業マンでした。
被告会社は,賞罰規定を定めました。
賞罰規定には,月間受注ノルマを200万円とし,
ノルマを達成できなかった労働者に対しては,
被告会社が決定する支店へ異動させるか,
固定給を10万円下げる降格をすると定めれていました。
原告の労働者は,このノルマ200万円を達成できませんでした。
もっとも,福井支店では,受注100万円
を達成できた人すらいませんでした。
被告会社は,原告の労働者に対して,
ノルマ200万円を達成できなかったことから,
固定給を10万円下げる降格か,
自主退職をするかのどちらしかないと主張して,
労働契約の内容を変更する書面にサインすることを求めてきました。
原告の労働者がサインを拒んでいたところ,被告会社は,
原告の労働者に対して,福井支店から長野支店への配転を命じ,
これに応じられないのであれば,自主退職するしかないと主張しました。
原告の労働者が,この配転命令に応じられないと回答したところ,
被告会社の福井支店に原告の労働者の席がなくなり,
長野支店への転勤か自主退職かの選択を迫られたことから,
原告の労働者は,被告会社に出勤しなくなりました。
原告の労働者が,被告会社に対して,裁判を起こして,
争っている途中に,被告会社は,長野支店への配転命令を撤回して,
福井支店での就労を命じてきました。
これに対して,原告の労働者は,
被告会社が本件配転命令の違法性を争っており,
被告会社との労働契約における信頼関係が確立されていないことから,
一度福井支店に配属されたとしても,再び不当に配転されないという
保証がないとして,この就労命令に応じませんでした。
判決では,被告会社の賞罰規定は,地域的特性を考慮することなく,
困難な売上高の達成を求める一方,達成できなかった場合には,
直ちに,固定給を10万円減額するか,
他の支店に異動させる制裁を課すものであり,
著しく過酷に過ぎ,不合理であると判断されました。。
さらに,原告の労働者は,50年以上福井市内で暮らし,
配転命令当時は妻子と同居していたので,
内示もないまま突如として長野支店へ異動を命じられることは,
原告の家族にとっても生活上著しい不利益となると判断されました。
その結果,長野支店への配転命令は違法無効となりました。
また,被告会社が配転命令を撤回しても,
本件配転命令で破壊された原告の労働者と被告会社の
労働契約上の信頼関係は回復しておらず,
原告の労働者が配転命令撤回後も出勤していないのは,
被告会社の責任であることから,原告の労働者は,
被告会社に対して,本件配転命令撤回後も
賃金請求ができると判断されました。
労働者と会社の力関係の差を考えれば,
会社が形式的に配転命令を撤回しただけでは,
復職後の不利益な取扱の可能性が残ったままとなり,
労働者は,安心して復職できません。
本判決は,このことを適切にとらえて,
違法無効は配転命令をおこなった会社が労働契約上の
信頼関係を回復しない限り,就労していない期間についても
賃金請求ができることを明確にした点で画期的です。
会社が,解雇や配転命令を形式的に撤回したとしても,
信頼関係の回復がないのであれば,労働者は,
無理に就労する必要はなく,賃金請求ができるのです。