石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
残業証拠レコーダーで労働時間を認定した事例~派遣型風俗店の店長の未払残業代請求事件~
6月16日のブログで紹介しましたが,
武田薬品工業が残業代の未払いなどで,
労働基準監督署から是正勧告を受け,
健康経営優良法人の認定を自主返納しました。
https://mainichi.jp/articles/20190608/ddm/041/020/141000c
このように,武田薬品工業のような大企業であっても,
残業代が労働基準法に従って支払われていないという実態があります。
地方の中小企業ですと,なおさら,
残業代が未払いなのだと思います。
とはいえ,労働者は,在職中に,
会社に対して,未払残業代を請求しようとは思いません。
なぜならば,在職中に,会社に対して,
本気で未払残業代を請求すると,
会社にケンカをうることになるので,
会社内で居場所がなくなったり,
のけものにされるリスクがあるので,
残業代を請求することは正当な権利行使ではあるものの,
未払残業代を請求しないことがほとんどだからです。
そのため,労働者が未払残業代を請求するのは,
会社を辞めるときがほとんどです。
会社を辞めるとき,会社がタイムカードで
労働時間を管理してくれていれば,
代理人の弁護士が会社に対して,
タイムカードの開示を求めれば,会社は,
タイムカードを開示してくれることが多く,
タイムカードをもとに労働時間を証明できます。
しかし,タイムカードがなく,
ほかに労働時間を証明できる証拠がない場合には,
裁判では労働時間を労働者が証明しなければならないところ,
この証明ができないので,
未払残業代請求を諦めなければならないときがあります。
そうならないためにも,タイムカードがない職場では,
いざというときのために,自分で労働時間を記録しておくといいです。
そして,労働時間を記録するためのツールとして,
残業証拠レコーダーというアプリがあります。
詳細は,こちらのサイトをご覧ください。
本日は,残業証拠レコーダーというアプリを利用して
労働時間を立証した裁判例を発見しましたので,紹介します。
派遣型風俗店の店長の未払残業代が争われた
令和元年6月7日名古屋地裁判決です。
この事件では,お店にタイムカードがなく,
雇用主は,店長の労働時間を管理していなかったのですが,
店長は,自身のタブレット端末に,
残業証拠レコーダーのアプリをインストールして,
労働時間を記録していました。
店長は,タブレット端末を持ち出さずに,
店舗の外に出ることがあったので,
タブレット端末がお店にあったからといって,
店長がお店にいた事実までは認定できないとされました。
しかし,店舗の営業時間が9時から翌5時までとする広告があり,
店長が電話対応や女性キャストの送迎をしていたこと,
雇用主が店長が主張している各日の労働時間
について個別の積極的反論をしていないこと,
店長が未払残業代を請求する意図を持って,
残業証拠レコーダーによる労働時間の記録をしていたことから,
残業証拠レコーダーに記録された
始業時刻と終業時刻が労働時間と認定されました。
未払残業代を請求するときの証拠は,次の4つの類型に別れます。
①機械的正確性があり,成立に使用者が関与していて
業務関連性も明白な証拠(タイムカード,タコグラフ)
②成立に使用者が関与して業務関連性は明白であるが,
機械的正確性がないもの(日報など)
③機械的正確性はあるが業務関連性が明白ではない証拠
(パソコンのログイン・ログアウト時刻,
メールの送受信記録,入退館記録のセキュリティー記録など)
④機械的正確性がなく,業務関連性も明白でない証拠(メモ,手帳など)
そして,証拠の証明力の関係は次のようになると考えます。
①>②≒③>④
①が最も証明力が強く,その次が②と③で
(②と③のどちらが証明力が強いかはよくわからないです),
④が最も証明力が弱いです。
残業証拠レコーダーの記録は,
③の類型に該当し,機械的正確性が認められるので,
実際の仕事内容などを労働者の証言などで業務関連性を補強すれば,
労働時間と認定されるのではないかと考えます。
タイムカードがない会社に勤務している労働者は,
残業証拠レコーダーなどで,労働時間を記録しましょう。
本日もお読みいただきありがとうございます。