石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
パタハラから育児休業取得による不利益な取扱の禁止を考える
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の元社員のカナダ国籍の方が,
育児休業を取得した後に,会社から仕事を減らされるなどの
不利益な取扱を受けたとして,東京地裁で訴訟が係属しているようです。
https://www.asahi.com/articles/ASM7952C0M79ULFA01N.html
子育て中の男性が職場で嫌がらせを受けることを
パタニティハラスメント(パタハラ)と言うようで,
最近,パタハラに関する訴訟が注目されています。
男性が育児休業を取得した後に会社から嫌がらせを受けた場合,
育児介護休業法10条の不利益な取扱の禁止に
違反していないかが問題となります。
本日は,育児介護休業法10条の
不利益な取扱の禁止について説明します。
育児介護休業法10条には,
「事業主は,労働者が育児休業申出をし,
又は育児休業をしたことを理由として,
当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない」
と規定されています。
どのようなケースが不利益な取扱いに該当するかについては,
「子の養育又は家族の介護を行い,又は行うこととなる
労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために
事業主が講ずべき措置に関する指針」
(平成21年厚生労働省告示第509号)
に具体的に記載されています。
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/3_0701-1s_1.pdf
例えば,「期間を定めて雇用される者について,契約の更新をしないこと」,
「労働者が希望する期間を超えて,その意に反して
所定外労働の制限,時間外労働の制限,深夜業の制限又は
所定労働時間の短縮措置等を適用すること」,
「昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと」,
「不利益な配置の変更を行うこと」,
「就業環境を害すること」などです。
育児休業から復帰してすぐに遠い支店への
転勤を命じられたような場合には,
「不利益な配置の変更」に該当するかが問題となり,
配置の変更前後の賃金その他の労働条件,
通勤事情,当人の将来に及ぼす影響など
諸般の事情を総合考慮して判断されます。
通常の人事異動のルールからは十分に説明できない
職務又は就業の場所の変更を行うことにより,
労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせる場合には,
「不利益な配置の変更」に該当します。
そのため,育児休業から復帰してすぐに
遠い支店への転勤を命じられた場合,男性労働者は,
小さい子供と妻を自宅において,単身赴任となれば,
妻に子育ての負担が集中するという精神的な不利益と,
自宅と単身赴任先の生活で二重に生活費がかかり
経済的な不利益も発生するので,
不利益な配置の変更に該当する可能性があります。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の事件の場合,
育児休業を取得した後に仕事を減らされたようですので,
「労働者が希望する期間を超えて,その意に反して
所定外労働の制限,時間外労働の制限,深夜業の制限又は
所定労働時間の短縮措置等を適用すること」,若しくは,
業務に従事させない,専ら雑務に従事させるなどの
「就業環境を害すること」に該当する可能性があります。
もっとも,三菱UFJモルガン・スタンレー証券は,
育児期間中であることを配慮しての措置であったと争っているため,
労働者が育児休業を取得しことと不利益な取扱いとの間に
因果関係が認められるかが問題となります。
育児休業を取得して不利益な取扱を受けた場合,
人事の必要性があったのか,
因果関係が認められるかを
入念にチェックすることが必要になります。
私は,現在,0歳と2歳の子供の子育てをしている最中ですので,
パパの育児休業の必要性はよくわかります。
パパの育児休業が当たり前になって,
パタハラがなくなることを期待したいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。