石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
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労働者は会社が被った損害の全額を負担しなければならないのか
2018年4月22日の「労働者が会社から損害賠償請求されたらどうするか」というブログ記事の続きです。
(https://www.kanazawagoudoulaw.com/2018/04/24/sonngaibaishou20180424/)
労働者の重大なミスで会社に損害が発生した場合,労働者は,会社が被った損害の全額を負担しなければならないのでしょうか?
この問題について,最高裁昭和51年7月8日判決(茨木石炭商事事件)が重要な判断をしています。この事件では,タンクローリーを運転していた労働者が,前方不注意により,前方を走行していたタンクローリーに追突してしまい,会社が,被害者側に対して,タンクローリーの修理費用と休車補償(交通事故がなければタンクローリーを使用して得られたであろう利益の補償)を支払い,労働者が運転していたタンクローリーの修理費用と休車補償を負担しました。そこで,会社が,労働者に対して,会社が負担した修理費用と休車補償の合計約40万円を請求してきました。ちなみに,会社は,対物賠償責任保険と車両保険には加入していませんでした。
判決では「使用者は,その事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度に置いて,被用者に対し,損害の賠償又は求償の請求をすることができる」という判断基準が示されて,会社の請求額が4分の1に制限されました。
ようするに,労働者のミスの程度や日頃の勤務態度,労働条件が劣悪だったかなどを考慮して,労働者が負担すべき損害額が減額される余地があるということです。この事件では,労働者の給料が安かったこと,勤務成績が普通以上であったことも考慮されて,会社の請求額が4分の1に制限されました。
労働者は,会社に対して,損害賠償をしなければならなくなったとしても,必ずしもその全額を支払わなければならないわけではないので,即座に賠償に応じてはならず,給料から損害額を天引きすることに同意しないようにしてください。
また,労働者の会社に対する損害賠償の支払いと労働者の退職とは無関係のことですので,労働者は,会社から,損害賠償を支払うまでは退職させないと言われても,これに応じる必要はなく,自由に退職することができるのです。
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