石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
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過労事故死について会社に損害賠償請求できるのか
過労状態で仕事中や帰宅途中に自動車などの
運転操作を誤って,交通事故をおこして死亡した場合,
遺族は,会社に対して,損害賠償を請求できるのでしょうか。
過労の蓄積で脳・心臓疾患を発症して死亡した過労死や,
過労により精神疾患を発症して自殺した過労自殺については,
厚生労働省から労災の認定基準が公表されており,
会社に対する損害賠償請求が認められている裁判例もあります。
他方,過労状態で仕事中や通勤途中に交通事故で死亡した,
いわゆる「過労事故死」の場合,労災で補償が受けられますが,
過労死や過労自殺のような認定基準は定められていません。
また,過労が原因で交通事故が発生したのか,
運転者のミスで交通事故が生じたのか明確に分からなかったり,
交通事故の場合,自動車保険で損害が補填されることから,
過労事故死の場合に,会社に対して
損害賠償請求することは少なかったと考えられます。
このような状況の中,過労事故死について,
平成30年2月8日に横浜地裁川崎支部において
重要な和解がありましたので,紹介させていただきます。
24歳だった若者が,夜通しの仕事を終えて,
片道1時間かかる自宅へ原付バイクで帰宅途中に,
見通しのよい直線道路を走行中に左前方へ斜走して
路側帯にはみ出して電柱に激突して
死亡したという交通事故がありました。
通勤災害として,労災から補償はでますが,
自損事故のため,事故相手の自動車保険が利用できず,
自分の原付バイクに十分な損害保険をかけていなければ,
遺族に対する損害は十分に補填されません。
そこで,過労状態で原付バイクで帰宅させたことについて,
会社に対して,安全配慮義務違反
(会社には労働者の安全を確保する義務があります)
による損害賠償請求をすることが考えられます。
本件では,被害者の仕事が顧客の店舗で観葉植物などの
設置や撤去をするという重い荷物の積卸しなど,
身体的な負荷の高い仕事をしており,被害者は,
複数の取引先を社用車を運転して頻繁に移動しながら,
深夜と早朝における作業をしていました。
そして,本件事故の日の前日から夜通しで,
拘束時間が21時間以上に及ぶ仕事をし,
他の日の時間外労働も多かったのです。
そのため,被害者は,深夜と早朝の勤務を含む不規則で
過重な仕事をし,事故直前に夜通しで仕事をしたため,
疲労が過度に蓄積して,顕著な睡眠不足の状態に陥り,
本件事故が発生したと認定されました。
そして,被告の会社は,被害者の仕事の負担を軽くする
などの措置をとることなく,深夜や早朝の仕事の場合に,
原付バイクによる通勤を明確に指示していたので,
安全配慮義務違反が認められました。
その結果,7590万円の損害賠償が認められました。
さらに,本件では,和解において,
被告会社が遺族に謝罪すること,
再発防止策を実施することを確約して,
実施状況をホームページで公表すること,
和解内容を公表することが合意されました。
判決では,単に,損害賠償としてお金を支払えで
終わるのですが,和解では,謝罪や再発防止策という
遺族が求める解決が実現できるメリットがあります。
通常,和解内容は,秘密にすることが多いのですが,
本件は社会的に重要な事件であることから,
和解内容が公表されたことが非常に画期的です。
過労が原因で交通事故が発生していることは多いと思いますが,
過労事故死は今まで表面化していなかっただけなのだと考えられます。
この和解をきっかけに,過労事故死の
救済がすすんでいくことに期待したいです。