石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
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ひらかたパークの熱中症の労災事故から熱中症の労災認定を考える2~熱中症予防対策マニュアルの紹介~
昨日に引き続き,熱中症の労災認定について解説します。
熱中症の労災の要件を検討するにあたり,
厚生労働省の「職場における熱中症の予防について」という通達と,
「職場にける熱中症予防対策マニュアル」
に記載されていることが参考になりますので,
ここに記載されていることを紹介します。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei33/
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/manual.pdf
そもそも,熱中症とは,高温多湿な環境下において,
体内の水分及び塩分のバランスが崩れたり,
循環調節や体温調節などの体内の重要な調整機能が破綻するなどして
発症する障害の総称であり,めまい・失神,筋肉痛・筋肉の硬直,
大量の発汗,頭痛・気分の不快・吐き気・嘔吐・倦怠感・虚脱感,
意識障害・痙攣・手足の運動障害,高体温などの症状が現れます。
熱中症が生じやすい環境は,高温多湿で,
発熱体から放射される赤外線による熱があり,無風な状態です。
気温が30℃を超えると熱中症発生件数が増加してきますが,
30℃より低くても相対湿度が高い場合には
熱中症が発生しやすくなるのです。
熱中症が生じやすい典型的な作業は,
作業を始めた初日に身体への負荷が大きく,
休憩をとらずに長時間にわたり連続して行う作業です。
加えて,通気性や透湿性の悪い衣服や
保護具を着用して行う作業では,
汗をかいても体温を下げる効果が期待できず,
熱中症が生じやすくなります。
では,具体的に,どれくらいの温度や湿度,
作業強度であれば,熱中症になる危険が大きいといえるのでしょうか。
この点,熱中症の発生リスクを評価するための暑さ指数として
WBGT(湿球黒球温度)指数が活用されています。
WBGT指数は,温度,湿度,風速,放射熱,身体作業強度,
作業服の熱特性といった因子をすべて考慮した,暑さ指数です。
WBGT指数の基準値を超えると
熱中症のリスクが高まることになります。
また,人間は暑さに多少慣れることがあり,
暑さに慣れてくると,体温を一定に維持する働きが
向上するとともに水分やナトリウムを失いにくくなります。
これを暑さへの順化といいます。
梅雨から夏になる時期で急に熱くなったときに作業をすると,
暑さへの順化ができておらず,熱中症が生じやすくなります。
労働者が暑さに順化していないときには,
作業休止時間や休憩時間を確保し,
高温多湿な場所での作業を連続して行う時間を
短縮する必要があります。
これらを前提に,職場では,
WBGT指数を低減するために,
熱を遮る遮蔽物を設置したり,
適度な痛風や冷房を行う設備を設置したり,
涼しい休憩場所を設置して,
水分や塩分を補給させたり,
熱を吸収し保熱しやすい服装を避けて,
透湿性及び通気性の良い服装を着用させたり,
作業中の巡視をさせたりといった,
熱中症対策をとることが考えられます。
以上をもとに,ひらかたパークの熱中症の労災について検討してみます。
今回の労災事故は,7月28日午後7時30分から8時ころに,
気温28.7℃,湿度68%の屋外で
重さ15㎏の着ぐるみを着用して
ダンスの練習をしていたときに発生しました。
気温は30℃を超えていませんでしたが,湿度が高く,
今年は梅雨明けが遅く,7月下旬ころから急に暑くなったので,
暑さへの順化ができていなかった可能性が考えられます。
高温多湿の環境で,密閉されて通気性のない重さ15㎏の
着ぐるみを着用してダンスの練習をすれば,
WBGT指数の基準値を超えていたと考えられます。
そのため,ひらかたパークの熱中症による死亡事故について,
仕事が原因で熱中症を発症したといえ,
労災申請をすれば,労災と認定されると考えられます。
労災と認定されれば,遺族に対して,
労災保険から,遺族年金などの支給がなされます。
暑い日が続きますので,屋外で働く方々は,
くれぐれも熱中症には気をつけてください。
本日もお読みいただきありがとうございます。