石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
森友学園の公文書改ざん問題から公務員個人に対する損害賠償請求が認められるのかを検討する
1 元財務省理財局長の佐川宣寿氏に対する損害賠償請求
先日もブログに記載しましたが,
森友学園への国有地売却と財務省の公文書改ざん問題で,
財務省近畿財務局の赤木俊夫さんが自殺したのは,
公文書改ざんに加担させられたからであるとして,
赤木さんの奥様が国と元財務省理財局長の佐川宣寿氏に対して,
損害賠償請求の訴訟を提起しました。
https://www.asahi.com/articles/ASN3L4WFBN3LPTIL00H.html
今回の訴訟で気になったのが,国家公務員の赤木さんを任用していた
国以外に,佐川氏も被告として,提訴したことです。
国に対する損害賠償請求をする際に,
公務員に対しても損害賠償請求をすることができるのかが,
問題となるからです。
本日は,公務員個人に対する損害賠償請求について解説します。
2 不法行為と使用者責任
ある者が他人の権利や利益を違法に侵害することを不法行為といいます。
具体的には,AさんがBさんを殴って怪我をさせた場合,
Aさんの殴る行為が不法行為になり,Aさんは民法709条に基づき,
Bさんに対して,損害賠償責任を負います。
そして,労働者が仕事中に不法行為をした場合,
労働者の雇用主である会社も,損害賠償責任を負います。
これを使用者責任といいます。
使用者責任については,民法715条に規定されています。
被害者は,不法行為をした労働者に対して,
民法709条に基づく損害賠償請求をでき,
使用者責任を負う会社に対して,
民法715条に基づく損害賠償請求をできるのです。
このように,会社と労働者の両方を訴えることができるのです。
3 国家賠償法1条に基づく損害賠償請求
これに対して,公務員が不法行為をした場合,
被害者は,国家賠償法1条に基づいて,
国または地方公共団体に対して,損害賠償請求をします。
国家賠償法1条に基づく損害賠償請求をする場合,
不法行為をした公務員個人の損害賠償責任は否定されます。
すなわち,国または地方公共団体を訴えることができても,
不法行為をした公務員個人を訴えることができないのです
(公務員個人を訴えても,請求が認められません)。
その理由は,公務員が負うべき責任を国または地方公共団体が
代位して負担するからなのです。
そのため,被害者は,国または地方公共団体を被告として訴えて,
勝てば,国または地方公共団体から損害賠償をしてもらい,
その後,国または地方公共団体が不法行為をした公務員個人に対して,
求償していくことになります。
しかし,不法行為をした公務員個人を訴えれない場合,
被害者としては納得できないことがあります。
4 公務員個人に対する損害賠償請求が認められた裁判例
例外的に,公務員個人に対して損害賠償請求ができないのでしょうか。
この公務員個人に対する損害賠償請求を
例外的に認めた裁判例があります。
共産党幹部宅盗聴事件の東京地裁平成6年9月6日判決です
(判例タイムズ855号125頁)。
この事件では,現職の警察官が犯罪にも該当すべき
違法な盗聴行為を行い,自分達の行為が違法であることを
当初より十分認識しつつ,あえて公務として盗聴行為に及んだもので,
警察官個人に対する損害賠償請求が認められました。
そのため,公務としての特段の保護を何ら必要としないほど
明白に違法な公務で,かつ,行為時に行為者自身が
その違法性を認識していたような事案については,
公務員個人に対する損害賠償請求が認められる余地があるのです。
赤木さんの事件の場合,公文書を改ざんする行為は犯罪であり,
明白に違法な公務になります。
また,佐川氏は,公文書改ざんが違法な公務であることを認識しながら,
指示をしていたはずです。
そのため,佐川氏個人の不法行為責任が認定される
可能性があると考えます。
公務員個人に対する損害賠償請求は認められにくいのですが,
赤木さんの事件では,佐川氏に対する損害賠償請求が認められる
可能性がありますので,訴訟の経緯に注目したいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。