石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
残業時間の上限規制を厳格に
今年の6月下旬に働き方改革関連法が成立し,現在,
厚生労働省において,法律の施行に伴う関係政令
を制定する作業が進められています。
つい最近,厚生労働省から,この政令案が発表されました。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000176581
働き方改革関連法をより詳しく理解するために
重要な政令案ですので,解説します。
働き方改革関連法では,これまで青天井だった
残業時間について,罰則付きの上限規制がもりこまれました。
これ以上の時間,残業させた場合,会社に対して刑事罰を科すよ
と規制することで,長時間労働を抑制しようとするものです。
この残業時間の上限が,原則1ヶ月45時間まで
となっているのですが,36協定で例外をもうければ,
1ヶ月100時間未満まで残業させても合法となり,
1ヶ月の残業が100時間を超えた場合に初めて
罰則が科されるようになっています。
この1ヶ月100時間の残業時間が,
精神障害の労災基準であることから,
過労死や過労自殺を助長すると批判されています。
1ヶ月100時間未満までなら残業が許容されるかのような
法律構成になっているので,政令案では,
上限ぎりぎりまではOKというわけではない
と示していくことになっています。
具体的には,36協定(残業できる条件を定める労使協定のことです)
で労働時間を延長するための留意すべき事項として,
次のような指針案が示されました。
「労働時間の延長をできる限り短くする
よう努めなければならないこととすること」
「年720時間までの特例に係る協定を締結するに当たっては,
次の点に留意すること。
・あくまで通常予見することができない業務量の大幅な増加等の
臨時の事態への特例的な対応であるべきこと。
・具体的な事由を挙げず,単に「業務の都合上必要な時」
「業務上やむを得ないとき」といった定め方は認められないこと。
・特例に係る協定を締結する場合にも,
可能な限り原則である月45時間,
年360時間に近い時間外労働とすべきであること。」
「使用者は,特例の上限時間内であっても,
労働者への安全配慮義務を負うこと」
残業時間を原則の1ヶ月45時間までに抑制し,
例外的な1ヶ月100時間未満をなるべく使えないように
しようとしているので,労働者にとっては喜ばしいことです。
抽象的な「業務の都合上必要な時」「業務上やむを得ないとき」
といった規定で1ヶ月100時間未満の例外が適用されてしまえば,
なし崩し的に1ヶ月100時間未満の残業が
許容されてしまうおそれがあります。
そこで,このような抽象的な規定では例外は認められないとして,
1ヶ月100時間未満の残業が許容されないように,
規制を強化するべきと考えます。
また,36協定を締結するには,
労働者の中から過半数を代表する者を選出して,
その過半数代表者が会社と36協定を締結します。
この過半数代表者は,往々にして,
会社の社長の意向や影響が及んだ形で選出されます。
社長が適当に,社員をつかまえて,
この書面にサインしてと言って,
36協定が締結されているのが現状だと思われます。
残業時間の上限規制は,労働者の健康を守る重要なものであり,
そのような重要なことを定める36協定を
いい加減な手続で適当に定めては,労働者の保護として不十分です。
そこで,36協定を締結する過半数代表者の選出にあたって,
会社の意向が及んでいる場合は手続違反であり,
そのような36協定には効力が認められないことを
明確に規定すべきと考えます。
過労死や過労自殺をなくすためにも,
残業時間の上限規制は,非常に重要ですので,
厚生労働省の動きに注目していきます。