石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
医師が解雇されるのはどのような場合か
契約期間が定められている労働契約(有期労働契約といいます)を,
契約期間が満了する前の期間の途中において,
会社は,労働者を解雇することができるのでしょうか。
本日は,有期労働契約の期間途中の解雇の有効性について説明します。
まず,有期労働契約を締結している労働者は,
契約社員,派遣社員,嘱託社員などの,
いわゆる非正規雇用労働者です。
非正規雇用労働者は,労働契約の契約期間が満了する時点で,
会社が労働契約を更新してくれない限り,
原則として,労働契約が終了して,職を失います。
そのため,非正規雇用労働者の雇用は不安定なのです。
他方,契約期間が定められていない労働契約
を締結している労働者が正社員です。
正社員には,契約期間が定められていないので,
会社から解雇されない限り,会社で働き続けることができるのです。
そのため,正社員の雇用は安定しているのです。
正社員に比べて,非正規雇用労働者の雇用は不安定なのですが,
労働契約で定められている期間中は,雇用が安定しています。
すなわち,非正規雇用労働者は,契約期間が満了すれば,
仕事がなくなりますが,契約期間中はよほどのことがない限り,
解雇されずに,労働契約が維持されるのです。
この点について,労働契約法17条には,
「やむを得ない事由がある場合でなければ」,
会社は,労働者を解雇できないと規定されています。
以上を前提に,5年の契約期間で労働契約を締結した
国立研究開発法人国立A医療研究センターの歯科医長が,
歯科医療に適格性を欠く行為があり,
部下職員を指導監督する役割を果たしていないなどとして,
契約の途中で解雇された事件を紹介します
(東京地裁平成29年2月23日・労働判例1180号99頁)。
この事件では,医師としての能力不足の解雇は
どのような場合に認められるかという,珍しい論点が争われました。
医師という専門職としての治療行為が,
どの程度までひどいと解雇されてしまうのかについて,
裁判所が基準をだしました。
医師は,患者の身体状態や意思をふまえつつ,
その都度適切な医療行為を選択して実施していくので,
医師には相当広い裁量が認められています。
そして,裁判所は,
医師の治療行為が相当な医学的根拠を欠いているか,
患者の身体の安全に具体的な危険を及ぼしたか,
治療行為に際して認められる裁量を考慮しても
合理性を欠いた許容できない治療といえるか,
という観点から検討すべきという基準を示しました。
さらに,本件では,契約期間の途中での解雇であるため,
解雇について「やむを得ない」理由があったかが
厳格に判断された結果,被告病院が主張する解雇理由について,
原告に医師として適格性を欠く行為はなかったと判断されました。
有期労働契約を契約の途中で解雇する場合には,
よほどの理由がないと解雇できないということと,
医師が能力不足で解雇されるのは,
どのような場合かについて判断された
珍しい裁判例ですので,紹介させていただきました。
労働者は,有期労働契約は契約期間の途中では,
よほどのことがない限り,解雇されないことを知っておいてください。
本日も,お読みいただき,ありがとうございます。