石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
第2次下請会社に雇用されている労働者は元請会社や第1次下請会社に対して安全配慮義務違反の損害賠償請求をできるのか
1 被災労働者は直接の雇用主以外に損害賠償請求できるのか
先日,造園業の労働者が高い樹木の上から転落した
労災事故の事案を紹介しました。
https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/rousai/201911188752.html
この事案では,被災労働者の直接の雇用主に対する
安全配慮義務違反が争点となりましたが,
もう一つ,重要な争点がありました。
それは,被災労働者は,直接の雇用主ではない,
元請会社や第1次下請会社に対して,
損害賠償請求ができるのかという争点です。
この事案では,被災労働者は,第2次下請会社と
労働契約を締結していたので,第2次下請会社が,
被災労働者に対して,安全配慮義務を負うのは当然ですが,
元請会社や第1次下請会社も,第2次下請会社の労働者に対して,
安全配慮義務を負うのかが争点となったのです。
では,どうして,直接の雇用主ではない元請会社や
第1次下請会社に対して,損害賠償請求をする必要があるのでしょうか。
それは,第2次下請会社が中小零細企業の場合,資力が乏しく,
被災労働者が損害賠償請求をしても,
損害賠償金を支払うことができなかったり,
最悪,破産するおそれがあり,
損害賠償金を回収できないリスクがあるからです。
元請会社や第1次下請会社が,資金の余力がある会社であれば,
被災労働者は,元請会社や第1次下請会社に対して,
損害賠償請求できれば,損害賠償金を回収できなくなる
リスクを回避することができるわけです。
そのため,直接の雇用主の資力に不安があるときには,
元請会社や第1次下請会社に対して,
損害賠償請求ができないかを検討することになります。
2 特別な社会的接触の関係が認められるか
次に,元請会社や第1次下請会社が,
第2次下請会社の労働者に対して,
安全配慮義務を負うのは,
どのような場合なのかについて,検討します。
最高裁の裁判例によれば,安全配慮義務は,
ある法律関係に基づいて,特別な社会的接触の関係に入った
当事者間において,信義則上認められるものとされています。
この特別な社会的接触の関係があったか否かについては,
下請会社の労働者が元請会社の管理する設備,工具などを使っていたか,
下請会社の労働者が事実上元請会社の指揮監督を受けて働いていたか,
下請会社の労働者の作業内容と元請会社の労働者の作業内容との類似性
といった事情に着目して判断することになります。
3 元請会社と第1次下請会社の安全配慮義務違反を認めた裁判例
そして,日本総合住生活ほか事件の
東京高裁平成30年4月26日判決(労働判例1206号46頁)は,
次のように判断して,元請会社と第1次下請会社の
安全配慮義務違反を認めました。
第1次下請会社については,元請会社の指示に基づいて,
第2次下請会社に対して,具体的でかつ厳守を求める指示を行い,
この指示は,第2次下請会社をつうじて,
第2次下請会社の労働者に対しても及んでいたので,
特別な社会的接触の関係を肯定する指揮監督関係があったとされました。
元請会社については,第1次下請会社に対して,
安全帯の使用について具体的な指示をし,第1次下請会社は,
この指示に基づいて,第2次下請会社に対して,
同様の具体的指示を行い,
その指示が第2次下請会社からその労働者に及んでいたので,
特別な社会的接触の関係を肯定する指揮監督関係があったとされました。
元請会社や第1次下請会社の間接的な指示がされていたことを理由に,
わりと緩やかに,特別な社会的接触の関係を肯定したのが,
労働者によって有利なポイントです。
このように,労災事故が発生した場合,
直接の雇用主の損害賠償金を支払う資力に問題がある場合には,
元請会社など他の会社に対して,
損害賠償請求ができないかを検討することをおすすめします。
本日もお読みいただきありがとうございます。