石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
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野村不動産の企画業務型裁量労働制に対する是正勧告
報道によると,東京労働局が野村不動産に対し,企画業務型裁量労働制を社員に違法に適用して,残業代の一部を支払っていないとして,是正勧告をしました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20171226/k10011272001000.html
裁量労働制とは,業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要がある場合に,実際の労働時間とは関係なく,あらかじめ決められた労働時間に基いて残業代込の賃金を支払う制度です。そのため,あらかじめ決められた労働時間以上働いたとしても,追加の残業代が支払われなくなります。
裁量労働制には2つあり,専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制です。今回の野村不動産で問題になったのは,企画業務型裁量労働制です。企画業務型裁量労働制の対象業務は,①「事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析の業務であって」,②「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があり」,③「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をないこととする業務」とされています(労働基準法38条の3)。
しかし,労働基準法の条文の定義を読んでも,どのような業務が対象になるのかがよく分かりません。厚生労働省のパンフレット等を読むと(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-8a.pdf),本社において企業全体の事業戦略の策定をする業務は対象になりそうで,個別の営業活動は対象にならないようですが,実際にどこまでが対象業務になるのかは不明確です。
このように,労働者にとって不利益を及ぼすことになる制度の要件が不明確であると,対象業務をしていない労働者にも対象業務に就いているとして,適用が拡大される等の悪用されるリスクが高まります。
野村不動産では,マンションの個人向け営業の労働者に対しても,企画業務型裁量労働制が違法に適用されており,適切な残業代が支払われていなかったようです。
企画業務型裁量労働制の要件に,労働者の個別合意を得ることがあげられています。労働者としては,合意をしなければ,企画業務型裁量労働制の適用を回避できますし,同意をしなかったことで不利益な取扱をうけることはありません。労働者は,ワークルールを学び,自分の身を守るために,与えられている権利を行使して,適切に働く環境を実現していくべきだと思います。