石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
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労働安全衛生法等から安全配慮義務違反の内容を特定する
本日は,昨日紹介した化学メーカーC社事件の
安全配慮義務違反について説明します。
(東京地裁平成30年7月2日判決・労働判例1195号64頁)。
労災の損害賠償請求において,
会社には安全配慮義務違反が認められるのかが
大きな争点となります。
安全配慮義務違反とは,会社は,
自己が使用する労働者の生命・健康を危険から
保護するように配慮する義務を負っているところ,
その義務に違反することです(労働契約法5条)。
この安全配慮義務は,抽象的な概念であり,
当該事件において,会社は,どのような安全配慮義務を
負っていたのかについて,労働者は,
安全配慮義務の内容を具体的に特定して,
その義務違反に該当する事実を,
主張立証していかなければなりません。
安全配慮義務の内容を具体的に特定する際に
役立つのが労働安全衛生法という法律です。
労働安全衛生法には,労働者が安全と健康を確保して,
快適な職場環境で働けるために,国が会社に対して,
様々な遵守事項を定めています。
そのため,会社が労働安全衛生法で示された基準を遵守せず,
あるいは違反している事実がある場合には,
規制の趣旨や具体的な状況下において,
安全配慮義務違反が認められる傾向にあります。
化学メーカーC社事件においては,
次の3つの安全配慮義務違反が認められました。
1つ目は,局所排気装置等設置義務違反です。
労働安全衛生法22条及び有機溶剤中毒予防規則5条により,
会社には,原告労働者が検査分析業務を行っていた研究室に,
局所排気装置を設置する義務を負っていたのですが,
局所排気装置は設置されず,会社はその状態を放置していました。
この法令の趣旨は,労働者の健康被害を防止する点にあること,
有機溶剤の毒性が人体に致命的に作用することがあることから,
会社には,安全配慮義務として,
局所排気装置等設置義務違反を負い,
その違反が認められました。
2つ目は,保護具支給義務違反です。
有機溶剤中毒予防規則32条2号,33条1項1号において,
会社は,労働者に対して,送気マスク又は
有機ガス用防毒マスクを使用させる義務を負っています。
この趣旨は,労働者の健康被害を防止すること,
有機溶剤の毒性が人体に致命的に作用することがあることから,
送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用させるという
保護具支給義務は,安全配慮義務の内容となり,
その義務違反が認められました。
3つ目は,作業環境測定義務です。
労働安全衛生法65条,労働安全衛生法施行令21条10号,有
機溶剤中毒予防規則28条により,会社は,
有機溶剤業務を行う屋内作業場において,
6ヶ月以内ごとに1回,定期に,
有機溶剤の濃度を測定し,
測定結果を3年間保存する義務を負っています。
この作業環境測定は,作業環境の現状を認識し,
作業環境を改善する端緒になるとともに,
作業環境の改善のためにとられた措置の効果を
確認する機能を有するので,
作業環境測定義務も安全配慮義務の内容となり,
その義務違反が認められました。
以上の3つの安全配慮義務違反が認められて,
合計1995万円の損害賠償請求が認められました。
このように,労災の損害賠償請求においては,
会社の安全配慮義務違反を検討する際に,
労働安全衛生法や会社が遵守すべき労働法の規制を調査して,
安全配慮義務の内容を具体的に特定することが重要になります。
本日もお読みいただきありがとうございます。