石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
新型コロナウイルス特措法45条の休業要請・休業指示と労働基準法26条の休業手当
1 大阪府による休業要請に応じないパチンコ店の公表
大阪府は,新型コロナウイルス特措法45条に基づき,
パチンコ店に対して,休業を要請し,店名の公表に踏み切りました。
しかし,店名を公表しても,パチンコ店が休業に応じず,
むしろ宣伝効果となり,客が集まる結果にもなっているようです。
そのため,大阪府は,休業しないパチンコ店に対して,
特措法45条3項に基づく休業指示をするようです。
https://mainichi.jp/articles/20200428/k00/00m/040/256000c
さらには,特措法による休業指示にも従わない場合に備えて,
罰則規定を設ける法改正の話しまででてきました。
状況が刻一刻と変わり,日本労働弁護団の
新型コロナウイルスに関する労働問題Q&Aも改訂されたことから,
特措法による休業要請と労働基準法26条の休業手当について,
まとめてみます。
http://roudou-bengodan.org/covid_19/
2 特措法24条9項の休業要請の場合
まず,多くの都道府県で実施されてきた休業要請は,
特措法24条9項に基づくものであり,これについては,
単なるお願いであり,応じなくても,氏名を公表されることはありません。
特措法24条9項の休業要請の段階であれば,
事業者がこれに自主的に協力しても,
事業者側に起因する経営判断に過ぎません。
そのため,特措法24条9項の休業要請に応じて,
事業者が休業した場合には,不可抗力ではないとして,
労働者は,会社に対して,労働基準法26条に基づき,
休業手当を請求できると考えられます。
この点,2020年4月22日のブログでは,
特措法24条9項の休業要請に応じた場合には,
休業手当を請求できない可能性があると記載しましたが,
訂正させていただきます。
https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/202004229228.html
3 特措法45条2項の休業要請の場合
次に,特措法45条2項に基づく休業要請について検討します。
特措法45条2項によれば,都道府県知事は,
施設の使用の制限若しくは停止を要請できるとされています。
大阪府によるパチンコ店に対する休業要請は,
特措法45条2項に基づく,パチンコ店という
施設の使用の停止を要請していることになります。
この特措法45条2項に基づく要請は,行政指導にあたります。
行政指導とは,行政が相手方を粘り強く説得して,
何らかの行為をさせ,あるいはさせないように働きかけるという
事実行為です。
行政指導に応じるか否かは,相手方の自由です。
ただし,特措法45条2項の要請は,
特措法45条4項の公表と相まって,
通常の行政指導よりも強力となっています。
特措法45条4項の公表は,
どの範囲までの情報を公表するかについて,
行政側に裁量があり,大阪府のように事業者の名前まで
公表する場合もあります。
休業要請に応じない事業者として名前が全国に公表されますので,
休業要請に応じないと,同調圧力の強い日本では,
バッシングを受けるリスクがあります。
そのため,特措法45条2項の休業要請については,
罰則規定はなく,法的な強制力はないものの,
事実上の強制力がはたらきます。
特措法45条2項に基づく休業要請に応じた場合には,
不可抗力に該当する可能性があり,労働者は,会社に対して,
休業手当を請求するのは困難になる可能性があります。
4 特措法45条3項の休業指示の場合
さらに,特措法45条3項による休業指示までいけば,
行政処分に該当しますので,不可抗力の要素がもっと強まります。
行政処分とは,直接国民の権利義務を形成しまたは
その範囲を確定することが法律上認められているものをいいます。
特措法45条3項に基づく休業指示についても,
特措法45条4項による公表がされますので,
休業指示を受ける事業者に対しては,
強力なプレッシャーになります。
そのため,特措法45条3項の休業指示に応じて休業した場合には,
より不可抗力に該当する可能性があり,労働者が会社に対して,
休業手当を請求できるのが困難になります。
以上まとめますと,特措法24条9項の休業要請の段階では,
休業手当の請求は認められている可能性がありますが,
特措法45条2項の休業要請と特措法45条3項の休業指示の
段階までいくと,休業手当の請求は認められない可能性が高くなります。
とはいえ,雇用調整助成金が拡充されていますので,
仮に不可抗力による休業となるとはいえ,会社には,
雇用調整助成金を活用して,労働者に対して休業手当を支払い,
雇用を維持してもらいたいです。
労働者は,雇用調整助成金の活用を会社にうったえて,
休業手当を支払ってもらえるように交渉してみてください。
本日もお読みいただきありがとうございます。