石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
会社に対する未払残業代請求事件で会社から損害賠償請求の反訴をされたものの400万円を回収した事例
1 暴行のパワハラ事件から始まった
本日は、未払残業代請求事件で、
400万円を回収した解決事例を紹介します。
クライアントは、建築会社に勤務していたところ、
社長から外壁材のサンプルで頭部を殴られて、負傷しました。
クライアントは、この暴行事件で、社長に対する恐怖心が強くなり、
会社を退職して、私のところへご相談にこられました。
クライアントの話を聞いていますと、社長は、
暴行事件以外にも普段から、パワハラを繰り返していたようですが、
パワハラを立証するための録音などの証拠はありませんでした。
他方で、クライアントは、長時間労働をしているのに、
残業代が支払われていないということがわかりました。
そこで、暴行事件について、治療費や慰謝料の損害賠償請求をして、
あわせて、未払残業代を請求することにしました。
このように、パワハラの実態のある会社は、高い確率で、
残業代が未払いとなっていることが多いので、
私は、パワハラの法律相談を受けた際には、
残業代の未払いがないかを確認しています。
2 タイムカードがなくてもパソコンのログデータで労働時間を立証する
この事件では、タイムカードで労働時間の管理は
されていなかったのですが、幸いなことに、
クライアントが会社で使っていたパソコンのログデータが
1年半ほど保存されており、それを入手することができたので、
労働時間を証明することができました。
暴行事件については、相手方の会社も非を認め、
早期に示談が成立しましたが、未払残業代請求については、
激しく抵抗してきましたので、労働審判を申し立てました。
相手方の会社は、パソコンのログデータでは、
労働時間を認定できないと主張してきました。
しかし、会社は、タイムカードなどで
労働時間を管理しなければならない義務を怠っていたので、
パソコンのログデータをもとに、
クライアントが手帳に時間をメモしていた記録で補正して、
労働時間を立証しました。
また、6ヶ月ほどパソコンのログデータが残っていなかったのですが、
会社が労働時間把握義務を怠っている場合には、
ある程度概括的に労働時間を推認できるとして、
パソコンのログデータが残っている期間の平均の残業時間で、
パソコンのログデータが残っていない期間の残業代を計算しました。
3 固定残業代の対価性の要件
相手方の会社では、給料明細書上は、
所定時間外賃金という名目で毎月4万円が支給されており、
相手方の会社は、この所定時間外賃金は固定残業代であるとして、
残業代は支払済みと主張しました。
しかし、相手方の会社は、就業規則もなく、
労働契約書もないので、クライアントは、
所定時間外賃金が何時間分の残業に対して支払われているのかという
説明を受けていませんでした。
そのため、所定時間外賃金という名目で、
給料明細書上では基本給と分けられて支給されていましたが、
所定時間外賃金は、残業に対する対価として
支払われているとはいえませんでした。
よって、所定時間外賃金は、残業代の支払として認められないので、
相手方の会社は、クライアントに対して
残業代をこれまで支払っていないことになります。
4 会社からの損害賠償請求
他にも、相手方の会社は、クライアントが
仕事上のミスを繰り返したことを理由に、
損害賠償請求をしてきました。
しかし、労働者のミスは、もともと会社経営に内在化しており、
会社が決定した業務命令自体に内在するリスクとして、
会社が負担すべき側面があることから、
損害の公平な分担という見地から、
労働者のミスを理由とする、会社の労働者に対する損害賠償請求は、
信義則上相当な限度に制限されます。
そのため、労働者のミスが重過失と評価できる場合には、
会社の損害賠償請求が一定の範囲で認められ、
労働者のミスが軽過失と評価される場合には、
会社の損害賠償請求が認められません。
そこで、そもそもクライアントにはミスはない、または、
ミスがあったとしても軽過失であるとして、
会社からの損害賠償請求を争いました。
労働審判では決着がつかず、訴訟に移行しましたが、
相手方の会社から、400万円の解決金を支払ってもらうことで
和解が成立しました。
パワハラ事件では、未払残業代請求を組み合わせることで、
労働者が満足する結果に結びつくことがあります。
本日もお読みいただきありがとうございます。