石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
よろしくお願いします。
マタハラの対処法3
昨日のブログにも記載しましたが,
育休後に復職しようとしたところ,
会社から仕事はないといわれて,退職勧奨され,
実質的には解雇のような対応をされた場合,
どのように対処すべきなのでしょうか。
本日は,育休後の復職の際に退職扱いされたことが争われた
出水商事事件を紹介します(東京地裁平成27年3月13日判決・
労働判例1128号84頁)。
この事件では,産休中の原告に対して,
突然退職通知が送付されて退職金が支払われ,
納得のいかない原告が退職扱いの撤回を求めたところ,
退職扱いが撤回されたのですが,
原告が育休後に復職しようとしたところ,会社は,
「補充人員で席がなく,仕事がない。退職した方がいいと思います。」,
「もう一度働きたいなら被告代表者と面接をする。
それから雇うか決める。面接はそのとき仕事があればする。」
等と言われたために,原告は,復職予定日以降,
被告会社に出社できませんでした。
このような被告会社の対応に対して,原告は,
育休後の復職予定日以降に出社していないのは,
被告会社に帰責性があると主張して,未払賃金の請求と,
産前産後休業中に退職通知を送付した行為が違法であると主張して,
損害賠償を請求しました。
ここで,労働者の会社に対する賃金請求権は,
会社で就労することによって初めて発生するのですが,
会社の「責めに帰すべき事由」によって,
労働者が働くことが出来なかった場合,
民法536条2項により,労働者は,
会社に対して,賃金を請求できます。
この場合,労働者には,労務提供の意思と能力が
必要とされているので,会社に対して,
働く意思があることを表示しておきます。
ようするに,育休後に復職しようとして,
会社から復職を拒否された場合であっても,
労働者は,会社に対して,働く意思があることを表示しておけば,
実際に働いていなくても,賃金を請求することができるのです。
また,育児介護休業法4条には,会社は,
子供の養育を行う労働者の福祉を増進するように努めなければならず,
育児介護休業法22条には,育休後の就業が
円滑に行われるようにするために,
労働者の配置や雇用管理などにおいて必要な措置を講ずるよう
努めなければならないと規定されています。
そのため,本件事件では,原告が育休を取得している以上,
復職予定日に復職するのは当然であり,
育児介護休業法4条,22条に照らせば,被告会社は,
育休後の就業が円滑に行われるように必要な措置を講ずるよう
務める責務を負うことから,被告会社が原告の復職を拒否して,
原告が不就労となっていることについて,
被告会社に帰責性があると判断されました。
そのため,原告の不就労の一定期間について,
原告の賃金請求が認められました。
そして,労働基準法19条1項では産前産後の休業をしている女性を
解雇してはならず,育児介護休業法10条では
育休の申し出をした労働者に対して解雇などの
不利益取扱いをしてはならないと規定されています。
それにもかかわらず,被告会社は,産休中の原告に対して
退職扱いにする連絡をし,原告から撤回を求められても直ちに撤回せず,
むしろ退職通知を送付しており,これら被告会社の一連の行為には
重大な過失があり,労働基準法19条1項,育児介護休業法10条に
違反する違法行為であり,不法行為に該当し,
慰謝料15万円が認められました。
会社から育休後の復職を拒否されたとしても,
働く意思を表示しておけば,賃金を請求できますし,
育児介護休業法10条違反を根拠に,少額になるかもしれませんが,
慰謝料の請求が認められる可能性があります。
会社の対応がマタハラなのではないかと感じたら,
早目に弁護士に相談するようにしてください。
本日もお読みいただきありがとうございます。