石川県金沢市の労働弁護士徳田隆裕のブログです。
未払残業・労災・解雇などの労働事件を中心に,
法律問題を分かりやすく解説します。
労働者の方々に役立つ情報を発信していきますので,
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弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例
私が所属している、「コーチング×弁護士の可能性を考える会」を立ち上げた4名の弁護士による共著である、「弁護士業務の視点が変わる!実践ケースでわかる依頼者との対話42例」を拝読しました。
弁護士が法律相談を実践している最中に必ずぶつかるであろう、依頼者との葛藤場面ごとに、コーチングの資格を持つ弁護士の視点から、よりよい法律相談に改善するためのアドバイスが書かれている、今までにない、弁護士向けの書籍です。
今回は、私がこの書籍を読んで得た気づきを3つ紹介させていただきます。
1 依頼者からの受任が難しい時の対処法
1つ目は、依頼者からの受任が難しい時の対処法です。
弁護士は、万能ではなく、あくまで法律問題に対する解説策しか提示できません。
法律では解決できない問題について、相談に来られる方が一定数いらっしゃいます。
さらに、相談者が法律問題で困っていても、証拠がないために、解決できないことも多々あります。
そのため、法律相談の対応をしても、事件を受任することを断ることがけっこうあります。
そのような場面で、弁護士が、相談者に対して、どのように声掛けをするのが効果的なのかについて、よく悩みます。
このように、事件の受任をするのがふさわしくない法律相談を受けた場合に、弁護士は、相談者に対して、相談者自身が行ってきた努力の過程を尋ねた上で、それを承認することが効果的です。
具体的には、「そのような状況で、今までどうやって対処してこられたのですか」と質問し、「よく、そうやって、お一人で、この問題にここまで対処してこられましたね」と承認します。
その上で、「いわゆる法的な解決は難しく、弁護士が入ることでお力になれるところは、残念ながら無いように思います」とはっきり伝え、「私自身、お力になれず心苦しいです」と弁護士自身の心情を開示します。
相談者の感情を受け止めて、時には、弁護士の感情を相談者に伝えることで、人間的な交流が生まれ、ちょっとした緊張関係が和らぐ効果が生まれるのです。
相談者に対して、事件の依頼を断るので、相談者に対して、不快な思いをさせることになるのですが、この相談者に生じる不快な思いを少しでも軽減させるために、弁護士の心情を開示していきます。
2 負けてもいいからと言われた時の対処法
2つ目は、負けてもいいからと言われた時の対処法です。
私が専門としている労働問題の分野ですと、なかなか勝てない事件があります。
例えば、雇止めの事件は、契約の通算期間が短く、契約の更新回数が少ないと、雇止めを無効にするのは難しいです。
このように、相談者が裁判をしても勝てない法律相談を受けた際に、相談者が、負けてもいいので、裁判の代理人を引き受けてくださいとお願いされることかあります。
私は、弁護士に依頼する以上は、弁護士費用以上の経済的利益が依頼者にもたらされるべきであると考えているため、弁護士に依頼しても損をするような事件を原則として受任しないポリシーで、法律相談を担当しています。
とはいえ、弁護士に依頼すると損をするとはいえ、目の前の相談者の状況からして、力になれないことに対して、申し訳ない思いになることがあります。
このような場合、弁護士があくまでも相談者の利益を考えていることを伝えるのが効果的です。
具体的には、「私も◯◯さんに損をしていただきたくないので、ご依頼をお引き受けるのが難しいです」と伝えます。
「損をします」という表現よりは、「損をしていただきたくない」という表現の方が、弁護士が相談者の不利益を心配していることが伝わりやすくなるのです。
少しの表現の工夫で、相談者が受ける印象が変わるわけです。
相談者の利益を考えていることを伝えていきます。
3 無理筋または不利な主張を要望された場合の対処法
3つ目は、無理筋または不利な主張を要望された場合の対処法です。
例えば、パワハラをしてくる上司が不倫をしていることを、パワハラの損害賠償請求の裁判で主張してほしいと言われた場合、上司が相談者に対して、パワハラをしたことと、その上司が不倫をしていることは、全く関係がありません。
そのように、関係ない不倫のことを主張しても、全く無意味ですし、最悪の場合、その上司から、名誉毀損で損害賠償請求されるリスクさえあります。
このような場合、すぐに相談者を否定してしまうと、相談者との関係が悪化してしまいますので、最初に一旦受け止め、「パワハラをしている上司が不倫していたとなると、悔しいとか色々な感情が湧いてきますよね」と感情を言語化します。
そのうえで、不倫の主張が、相談者にとって不利になることを伝えて、相談者が大事であるからこそ、その主張はできないと伝えます。
さらに、「少なくとも、現時点では、いったん置いておくのが得策だと思います」と伝えて、別の話題に相談者の視点を変えるのが効果的です。
このように、弁護士が直面する葛藤場面について、効果的な対話のやり取りが具体的に解説されているので、とても参考になります。
法律相談のスキルを向上させたい弁護士におすすめの一冊です。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。